NHK-ETV/BS デジスタ・アウォード2003(※repeat)

http://www.nhk.or.jp/digista/

■ゴールデンミューズ(年間最優秀作品)
【映像部門】LIFE NO COLOR 田澤潮 [Ushio TAZAWA]
インタラクティブインスタレーション部門】青の軌跡  鈴木太朗 [Taro SUZUKI]
デジスタ年間作家奨励賞 横井謙 [Ken YOKOI]
■横浜賞 青の軌跡  鈴木太朗 [Taro SUZUKI]

◆ ファイナリスト・7組(一次審査通過者)【映像部門・5作品】
『LIFE NO COLOR』田澤潮 [Ushio TAZAWA]『引力』石塚敦子 [Atsuko ISHIZKA] 『Goldfish』高柳陽 [Akira TAKAYANAGI]『じいさんのつぼ』渡村耕資 [Koshi WATAMURA]『the letter』チャン・ヒョンユン [Chang Hyungyun]
インタラクティブインスタレーション部門・2作品】
『障害』嶋田俊宏 [Toshihiro SHIMADA]『青の軌跡』鈴木太朗 [Taro SUZUKI]
▼ ファイナリスト 【映像部門・01 02 03 】  
●01 LIFE NO COLOR 田澤潮 [タザワ・ウシオ]●色によって階級を差別化された近未来社会。少年と少女のせつない出会いとすれ違いを、情感豊かな映像で描ききった作品。作品を象徴する都会の中のリフトに自らの想いを込め、都市を生きる主人公達の心を伝える新感覚のアニメーション。アニメーション会社を経て、現在フリーで活動する田澤さん、街の中で生まれる人間模様に惹かれ、作品を作ってきた。作品の風景は、かつて4ヶ月間滞在していたニューヨークの町並みからインスパイアされたもの。風景写真をモチーフに、一枚一枚手書きで原画を制作。リフトは3DCGを使っている。今回のデジスタ・アウォードで、田澤さんがどうしても会って話を聞いておきたい人、それは、キュレーターのアニメーション監督、森本晃司さんだった。実はアニメーションを志したのも、森本さんの作品に強い衝撃を受けたのがきっかけ。一時期、森本さんと同じ会社に勤めていたが、自主制作に打ち込むため、3年前に退社。そのとき以来の再会だった。
森本晃司「成長してるね。プロじゃない新鮮な感じ良い。プロだとなかなか出せない。絵が整ってしまうので。そういうキラキラしたものがある。はずかしいけど、オレも直球しないとな。照れない年になりたい。」
●02 引力 石塚敦子 [イシヅカ・アツコ]●人気(ひとけ)のない深夜、少女を襲った超常現象。地球の重力に逆らう不思議な力が、月明かりの街を覆う・・・。幼い頃から宇宙をモチーフに絵を描いてきた石塚さん。 中でも一番に惹かれているのが、神秘的な満ち欠けを繰り返す月。入賞作は、そんな月に、もし強い引力があったらと、得意の空想から生まれた作品だ。白地に黒い線を描くのではなく、黒地に白い線で「月光があたる部分」を描き、モノクロながら立体感のある作品に仕上げている。当日は「緊張も良い、意外と楽しめるタイプ。沢山の人と対面するのは、面白いですね。」と作品資料を手にマイペースで作品アピールを進め、余裕すら感じさせる石塚さんだった。
●03 Goldfish 高柳 陽(タカヤナギ・アキラ)●瓶を振ることで、金魚が増殖するというシュールな作品。大学でデザインを専攻し、グラフィックデザインに‘時間の流れ’を 与える新しい映像表現を模索していた高柳さん。最初の映像作品は、通学中の電車がきっかけで生まれたという。1枚の写真から、この世にあり得ない映像を作り上げた。高柳「現実のものと作られた世界が近いところにあってちょっとずれたときに面白さが増す。」その後本格的に3DCGの勉強を始めたが、金魚をモチーフにした今回の入賞作でも、現実にはあり得ない映像表現は健在。人物の実写と、CGの金魚を組み合わせ、完成させた。メンバーの中で最も緊張するタイプという高柳さん、「手作りのスタジオが意外に綺麗にできたので、そこを見て頂きたい・・・」緊張の面持ちで、審査員の待つ部屋へ足を運ぶ高柳さんだった・・・。
▼ ファイナリスト 【映像部門・04 05 】  
●04 じいさんのつぼ 渡村耕資(ワタムラ・コウシ)●つぼを写真に撮ろうとするおじいさんが、良いアングルが見つけられず、試行錯誤するうち、遠近感が逆転してしまうというストーリー。 作者の渡村さんは、映画を愛し、映像に対する興味が人一倍。撮影スタッフのカメラにも、「マイクは標準なんですか?何が違うんですか?重いんですか」と興味津々の様子。現在、兵庫県芸術大学の大学院に在学中。様々な映像表現を研究しているが、これまで手掛けてきたのは、特撮映画顔負けの映像表現。実写とCGを巧みに織り交ぜ、非現実的な光景をリアルに映像化してきた。しかし、今回の入賞作では一転して、実写を一切使わない表現に挑戦。「遠近感の反転」をテーマとし、3DCGを巧みに使って、遠くのものが大きく見え、近くのものが小さく見える空間を作り上げた。「CGは不自然。普通じゃ表現できないものが撮れるので楽しい。」 誰も見たことのないシュールな映像表現へのこだわりから生まれた本作。斬新な映像感覚と緻密な構成、そして洗練されたCGの技術。ところが実は自己主張の下手な性格。「ちょっとやばいですね。どうしようかなと今考えているのですが、何とか乗り切れたらいいなと思っています(笑)」果たして、その持ち味はキュレーターに伝わったか?!
●05 the letter  チャン・ヒョンユン●別れた彼女に手紙を出し続ける主人公と、そんな彼に恋をする郵便局の少女の物語。手紙は全て恐竜が食べてしまうため、決して届くことはない・・・。作者は、今年海外からただ一人入賞を果たした韓国のチャン・ヒョンユンさん。早速報告コールを送ったのは、故郷のお母さん。「“良かったね。良かったね。そこまでで立派だよ。あんまり期待しない方が言いよ”っていわれました。」現在ソウル在住、5人の仲間と共にクリエイティブ集団を結成し、国からの援助も受け、活動している。 これまで都会に住む人々の孤独といった社会的なテーマを作品にしてきたが、今年卒業した国立映画アカデミーの卒業制作でもある本作では身近な日常を舞台に、パーソナルなコミュニケーションを描いた。今回アウォードに臨むにあたり、言葉の壁を乗り越えるため、絵を使って作品をアピールすることに。挨拶には日本語を取り入れようと、練習にも余念がない・・。「ドウゾヨロシクオネガイシマス」  
▼ ファイナリスト 【インタラクティブインスタレーション部門・01 02】
●01 障害 嶋田俊宏(シマダ・トシヒロ)●バリアフリーや手話・点字を、分かりやすいインタラクティブなアニメーションで表現した作品。大学卒業後、プロのデザイナーを目指し、上京。現在は専門学校でウェブを学んでいる。入賞作では、障害をテーマに選んだ嶋田さん。実は母親が手話通訳者であるなど、障害を持つ人々と小さい頃から身近に接してきた。そうした経験を生かし、誰もが自然な形で障害と向き合える作品を作ろうと思い立った。作品制作のため、半年間、障害者の施設をまわりリサーチを重ねたという嶋田さん、「障害をテーマにしようとしたとき、イメージ通りのポスターが受け入れられず、新しいビジュアル作れば広まるのかなと思った。先生には、障害をテーマにするのは難しいと言われたが、それは違うなと。一般の意見を変えようと。」そんな想いから、制作の過程で最もこだわったのは、個々のビジュアルの表現。「デザインの要素を入れればもうちょっと分かってくれる人もいるんじゃないかと思った・・・」 「遊び心とデザインのセンスが生きている・・・有機的な部分と無機的な部分の溶け合い方が上手い・・・(中島信也)」など審査員の面々からも好評価を得た嶋田さん。「グランプリを取りに来た」と威勢の良い発言と同時に、「レ
ベル高い人が集まっているから、それで楽しみですよね。どの程度モチベーションを持っているのか話が聞けるのが楽しみです。」と、期待を膨らませる。「作りたいものがあって友達に聞いてフラッシュを覚えた。WEBでも流しているが、デジスタで賞をもらえれば、もっと人が見てくれる・・・賞を取るのもあるが出会いが楽しい。自分は最終的に稼ぎたい。親に学費を返したい。」審査員を前に作品アピールの声は続く。人とコミュニケーションをすることこそ、嶋田的表現の原点なのだ。
●02 青の軌跡 鈴木太朗(スズキ・タロウ)●光と風を使ったインスタレーション作品。1メートル四方の台の上にはられた薄い布を、49個のプロペラが持ち上げ、光の動きを演出する。「実際に見ると、凄い、すてきだ。(松浦季里)」「布で光がけんかする感じが凄い。(田中秀幸)」「光が漏れてくるところなど、それを発見した視点が凄い。(中谷日出)」と、審査員も口々に賛嘆の声。 「配線が多いので、当日動かなかったり・・・微妙な線のはずれとか原因・・・」と、現場でこまめにメンテナンスに気を配っていた作者の鈴木さん。大学院で美術を学びながら、メディアアート作品を制作している。以前は、水の中に空気の気泡で模様を描く数々の作品を手掛けてきた。「共通したテーマは自然の美しさを表現すること・・・」デジタル技術を使いながらも、水や布などの自然の美しさを巧みに生かすというのが鈴木ワールドの大きな特徴だ。自然に対するこの独特な視点には、実はアマチュア写真家である父康二朗(こうじろう)さんの影響が大きく反映している。日常の風景を、光と影を強調して写し取る父親の写真に、「モノは切り取り方ひとつで美しくなる」ということを教えられたのだ。 また、鈴木家にとってこのデジスタ・アウォードは、特別な意味を持つイベントでもある。『青の軌跡』が初めてデジスタで紹介されたのは、2003年7月。‘街なかで体験する作品’というテーマで、メディア・アーティスト、岩井俊雄セレクションに選ばれた時だ。作品が置かれたのは、神社の境内。作者の鈴木さん自身も出演したこの撮影の2日前、実は鈴木さんのお母さま、千恵子さんが神社のすぐ目の前にある病院で亡くなられていた。鈴木さんが番組に出ることを楽しみにしていたお母さんだったが、それを見ることはかなわなかった。 アウォード当日、会場に駆けつけたお父さんとお姉さん。「本当に嬉しいです。ここまでになってくれてありがとうな。」一番楽しみにしていたというお母さんの遺影を手に、息子の成長に目をうるませるお父さんだった。

■選考ドキュメント
▼映像部門
キュレーターの投票が割れ、過半数に達する作品がなく、キュレーター全員で激しい議論が戦わされることに。

:::『じいさんのつぼ』わずかにリードか?!未知の可能性を感じるという意見が相次ぎ、最初の得点で一歩リード。

佐藤可士和「視点が明解。本人がコンセプチュアルじゃないところが面白い。言語化できてないだけで、感覚でなくコンセプト的な視点がある人。」中島信也デジスタとしては、ちょっとびっくりするとか驚きの要素を持ち続けていきたい。手法など、作られているものは特に新しい映像と言うことではないが、見ている人が新しい体験を出来ると言うところがツボになってまして、だとすると作者のゆるいキャラに愛情感じる・・・」

:::対抗馬に、『LIFE NO COLOR』! オリジナリティを巡り、激しい意見のぶつかり合いが展開される。

檜山巽「和製アニメ様式の秀作が外国で評価される中、作家性もあるし、この作品のようにお家芸である前ジャパニメーションと思えるものが、(デジスタ・アウォードが)日本で評価されることがステータスとなる場所みたいなもの(として)を置かないといけないのでは、と。そこを気にしている。」中島信也「オリジナリティが疑問」宮崎光弘「オリジナリティに関して映像の専門家に説き伏せて欲しい。」森本晃司「キャラクターが完成されていない。完成されてしまうとこの味がなくなる。そのキャラクターが初めて意志を持ったときに初めてキャラクター然としてくる。これは過渡期で、きっちり顔になってないという所も評価している。」伊藤有壱「映像を気持ちよく見せるセンスは卓抜。」寺井弘典「中堅どころの作家が映像業界にいて抜けきれない。こういう人たちをプッシュする期待票として出していくのはある。」
:::::『じいさんのつぼ』と『LIFE NO COLOR』」二派の一騎打ちかに思われた議論、しかし、事態はさらに混迷を深めることに・・・。
田中秀幸「終わり方とか、構成とかしっかりしている。渡村さんは賭けかもしれないが、理想を言うと、こういう人たちに大作を作ってもらいたいという気持ちがある。ちょっとそこが譲れない。」

:::すっかり膠着状態に陥った映像部門の審査。最終結論は決選投票へと持ち越された。

インタラクティブインスタレーション部門

:::個性派の作者に議論が集中する『障害』

竹中直純「この人は目がよい。視点を変えていこう、と。その目の良さはどんな作品にも応用できる」土佐信道明和電機社長)「親が手話をやっているというのは生半可な気持ちで(作品を)やっていないと思う。突っ張っている印象があったけれども本気でやっていると思った。」 八谷和彦「実際にやってみたが、手話を覚えようというインターフェースではない。アニメを作るときに、これ押すと面白いアニメが出るという。「はじめまして・・・」とかが手話になっていたら相当評価する。」岩井俊雄「難しいテーマを軽やかに美しくまとめ上げたそのセンス才能が凄い。3DCGをやらずに軽やか2Dで表現したところに感心した。」(ビデオ審査で参加)

:::作品が持つ存在感に評価が集まる『青の軌跡』

田中秀幸「本当に公共施設の前に置いてあってもおかしくないような」八谷和彦「‘今後良い作品を作っていくために応援しますよ’という賞であるなら、『青の軌跡』の彼は、この期待がおける。」

:::その一方で、一部のキュレーターから厳しい意見も。

クワクボリョウタ「現象が古いのではなく、興味の対象が古い。現象を扱うということが古く、知らないというなら勉強不足。」 土佐信道明和電機社長)「物凄く美しいものが作りたい、見たいという要求から作っていると思う。僕やクワクボ君は、考えて、美しいものだけでは話が出来ない、今のメディアアートでどういうものを作ろうか、というところでやってきた。彼には、今後もっと苦しんで突っ込んでやっていくだろうかという不安感もあって、作家としての強さも考えてしまう。」中島信也「鈴木君、人間としては純粋だよな。」佐藤可士和「いや、2人とも真面目。嶋田くんもTVでこんなこというのは勇気いるもの。」

:映像部門同様、長きにわたる膠着状態を経て、議論は最終結論へ。

【ノミネート作品】
『LIFE NO COLOR GOD DOG PRODUCTION』 田澤潮 『再生の矢』 森本護 『怪談 』壱岐紀仁 『言の葉 』西弘毅 『GOLD FISH』 高柳陽 『アイタイヒトとだけ』 いわきりなおと 『clean creena 』田中由香利 『SEESAW 』浜辺少年 『自由創作表現者TV 』自由創作表現者(友寄司+榮野比★敬子) 『コミュニケーショングリル』ちゃんぐ亭(末田航+石井孝治) 『夢ノ残リ』清水由希 +大野洋一+久保田真希 『はじめましてにほんです 』西岡淳 『Time and tide wait for no man 』馬場昭年 『全自動オルゴール』辻音楽師 小林大地 『LAN!! 』新堀孝明+稲波伸行 『Wonder Frog 』又吉浩 『しももも』赤木紗英子 『障害』嶋田俊宏 『じいさんの壺』渡村耕資 『polygonhand_0000.jpg』川畑浩介 『 Room Sounds Chronicle 』 山本尚明+西垣浩平 『びんひろい 』遠藤雪代 『Tools 』田村忠士『the letter』 Chang Hyungyun 『新聞史』 田中紫紋 『ゲートボール』川島高 『歯男 』坂元友介 『かるた〜諸国名物篇〜』佐藤真喜子 『さらば!! イタルマン』堀野達 『THE PASSAGE OF TIME IN A SPACE 』本間雄介 『百怪ノ行列/浅草キケン野郎』沼口雅徳 『青の軌跡 』鈴木太朗 『引力』石塚敦子 『freefall browser』中村和憲