毎日新聞「ひと」 松岡正剛◇「千夜千冊」の書評を完結させた

http://www.mainichi-msn.co.jp/column/hito/news/20040708ddm002070174000c.html
◇バーチャル空間の「図書街」づくりが次の夢

 主宰する編集工学研究所のサイトを開設する時に、「お客さんにのぞいてもらわねば」と1日1冊、全1000冊の書評をやろうと決意した。日程をやりくりして、ほぼ毎日数時間、3000字から5000字の文章を書く。それも原稿料なしで。途中で「しまった」と後悔したが、「手遅れでした」。

 00年2月23日の第1夜は中谷宇吉郎「雪」。第300夜のハーマン・メルビル「白鯨」、第900夜の宮沢賢治銀河鉄道の夜」などを経て、7日の「良寛全集」で完結した。当初はアクセスが月40件程度だったが、今では23万件に。文化人類学者の山口昌男さんは、このぜいたくな読書案内を「21世紀の知を俯瞰(ふかん)する偉業」と呼んだ。

 「本という小さなコスモス(宇宙)はただものではない。開くだけでラグビーでも、クロアチアでも調べられる。何かを知るには、本が一番高速なんだと伝えたかった」

 本業は、集めた情報の間に関係性をみつけて集大成し、新しいものを創造するエディトリアル・ディレクター。ルーブル装飾美術館展、歴史教育ビデオ制作などジャンルを超えた仕事でアート・思想界を刺激し、日本文化の案内人としてもカリスマ的人気だ。次の夢は600万冊を収蔵した本棚をそっくり街にする「図書街」を、バーチャル空間につくること。本を引き出せば内容がのぞけるといった設計図もできている。
<文・佐藤由紀/写真・尾籠章裕>